木の家イムラは、
奈良県立医科大学と共同で
吉野杉の自然免疫成分を
研究をいたしました。
「吉野杉の家」をお引き渡ししたお客様から、
子どものアトピーや喘息などの
アレルギー症状が緩和した
という声が増えてきたのがきっかけでした。
2016年~2023年の6年間の研究の結果
「アレルギーへの効果」という
吉野杉の新たな可能性が
見出される
子どもが将来アレルギーに
なりにくくなる可能性も!
今後、更なる研究が必要ですが、吉野杉でつくった
住居内では常に多くのLPSにさらされるため、
特に子どもが成長する過程で免疫力を鍛え、
アレルギーを将来的に抑制することが
できるのではないかという可能性が示されました。
さらに、健康・住み心地に関する
アンケートを実施いたしました。
奈良の木の家にお住まいの67人に聞きました。
奈良の木の家は心地よいですか?
特別座談会企画
産官学連携で、地域創生と
循環型社会の実現へ
当初は「産官」の取り組みだったわけですが、奈良県立医科大学も加わり「産官学」の連携に広がったのはどういうきっかけがあったのですか。
井村
住宅事業を始めて5~6年経った頃から、家をお引き渡ししたお客様から、子どものアトピーや喘息などのアレルギー症状が少し緩和したという話を聞くケースが増えてきました。住宅のお引き渡し1年後といった節目で、住み心地などのアンケートを取っているのですが、そうした声が多く届くようになったのです。
当社の家を選ばれるお客様の中には、お子さんが喘息だったり、アトピーなどのアレルギー症状がある方も少なくありません。そうした方々から、症状の緩和が見られるという話を聞き、「もしかしたら『吉野杉の家』は体によいのでは?」という考えがふと頭をよぎり、その実態を正確に知りたいという思いが強まりました。
ところが、それを調べようと思っても、当社のような中小企業では、どうすればいいのかわかりません。森林や木が人間の体にいい影響を与えることは一般的に知られていますが、吉野杉に何かほかの木にはない特徴があるのかどうかを科学的に証明できないかとずっと悩んでいました。
そうしたときに、地元の金融機関が主催した産学連携のイベントで、奈良県立医科大学の伊藤先生と出会ったのです。2016年のことです。イベントには奈良県立医科大学に在籍される各専門分野の教授の方々が50人ほど出席されていて、みなさん立派な感じで、私は気後れしていたのですが、伊藤先生だけが穏やかな雰囲気で、気軽に相談できそうな感じがしました(笑)。伊藤先生は奈良県立医科大学の出身で、今も奈良に住んでおられます。我々の家づくりに対する思いを聞いていただいたところ、協力を快諾してくださいました。
伊藤
企業の多くは商品開発や販売で医学的な協力を得たいと考えていらっしゃいます。ただ、そういった場合、通常は臨床の教授に話が届き、私のような基礎研究者にはあまりお声がかかりません。ところが、そんな中で、最初に私に声をかけてくださったのが井村社長でした。私自身が小児期にアトピー性皮膚炎で、医師を目指したのもアレルギーについて知りたいというのが発端でした。井村社長の話に興味を持ち、細井学長が取り組む「MBT」(Medicine-BasedTown医学を基礎とするまちづくり)の活動とも趣旨が合致したので、免疫学教室として協力することになりました。
細井
MBTは、MBE(Medicine-basedEngineering医学を基礎とする工学)の概念を発展させ、産業創生やまちづくりに医学の知見を注入するという構想です。MBEは、工学が医学に貢献する「医用工学(MedicalEngineering)」に対し、医学が工学や産業創生に貢献する概念といえ、それを進化させたMBTは、すべての産業に医学の光をあて、医学による産業創生を図ることを目指しています。今まで患者との1対1にしか使ってこなかった医師・医学者・看護師などの知識を、産業創生、まちづくりに活用することを目的としています。
私がMBTに取り組むことになった出発点の一つは、2004年に発想した「住居医学」にあります。
住環境が人の健康や病気に及ぼす影響を医学的に研究するもので、今回の吉野杉の研究は、住環境を改善してアレルギー症状の抑制など健康につなげるという取り組みですから、住居医学の典型例といえます。
伊藤先生は研究の結果、2022年に「吉野杉についての研究論文」を発表されました。内容を簡単に説明していただけますか。
伊藤
まず研究の背景から説明しますと、日本の住居で特に問題になっている一つに、シックハウス症候群が挙げられます。マンションなどのコンクリート製の家をはじめとして、住宅の気密性が高くなると、カビや細菌が繁殖しやすくなる場合があり、それが原因でアレルギーが誘発されます。昔の家はほとんど木材でつくられていたので通気性がよく、そうしたアレルギーはあまり起きませんでした。ですから、細井学長の話のように、住居は私たちが健康でいるための重要なファクターだと思います。
そうした背景をもとに、今回の研究のコンセプトは、吉野杉に何かアレルギーを抑制する効果がないかを検証するというものでした。杉というと杉花粉のイメージが強く、花粉症などアレルギーを引き起こす原因と思われがちですが、住宅建材として杉を使用した場合は、何がアレルギーに対してよい作用を有しているのか検証することから研究を始めました。私の専門は免疫学ですので、免疫細胞(白血球)を用いて、川上村の吉野杉のチップから抽出したエキスが、白血球にどのような働きかけをするのか試行錯誤を繰り返したのです。
結論を簡単に述べますと、樹齢100年くらいの川上村の吉野杉の中に含まれる「エンドトキシン」(内毒素)、これは「リポポリサッカライド」(LPS)とも呼ばれる物質ですが、ほかの杉に比べると、圧倒的にLPSの濃度が高いことがわかりました。
LPSは、人間の体のあらゆる組織に存在する免疫細胞「マクロファージ」の働きを高め、免疫力を上げることがわかっています。詳しい説明は省きますが、要は、LPSはマクロファージの働きを高める力を持っていて、アレルギーなどに対する免疫力を鍛える効果があるということです。そのLPSを川上村の吉野杉はたくさん含んでいるのです。
この結果をもとに論文を作成し、吉野杉でつくった住居内で常に多くのLPSにさらされる環境というのは、特に子どもが成長する過程で免疫力を鍛え、アレルギーを将来的に抑制することができるのではないかという可能性を示しました。住居というのは長い時間過ごす場所で、子どもが成長していく環境として最も大切な場所だと思います。吉野杉のような木の環境で暮らすことで、子どもが将来アレルギーになりにくくなることが期待できると考えています。
吉野杉がアレルギーに対して効果がある可能性を示されたことで、今後、地域創生や循環型社会の実現に向けてどのような取り組みをされていくお考えですか。
細井
大学として取り組むことは、大きく2つあると考えています。一つ目はいろいろなエビデンスを出していくことです。今回の吉野杉の物質のエビデンスに限らず、たとえば川上村で働いている人の生活環境による医学的なもの、たとえば血圧の安定につながっているとか、いろいろな可能性があります。それらを研究してエビデンスを出していきたいと思います。
二つ目は、そのエビデンスを発信していくことです。吉野杉の木としての素晴らしさ、伝統について、地元の人はよく知っています。今回、井村社長はそれ以外の医学的な効果に気が付き、伊藤先生がそれを実験して証明した。そしてエビデンスが出て、論文になったわけです。
その次にどうするのか。世の中に広く知らせる必要があります。とはいえ、アレルギーに効くといった効能・効果はうたえません。法的な問題があるからです。エビデンスはあるのに、うたえない。それならばマスコミなどを通じてうまく広めるしかありません。そのときに大学は、一般企業よりもある程度の発信力があります。公的機関ですから、信用性、信頼性が高いのです。特に私たちは医科大学なので、科学的なエビデンスを発信しやすい。たとえば、私が理事長を務める一般社団法人MBTコンソーシアムには、大手を含め約220社の会員企業が加盟しており、週1回程度、ニュースレターを出しています。
伊藤
吉野杉がなんとなく高品質な木であるという一般認識はそれなりにあると思います。なんとなく良さそうなものというのは世の中にたくさんあります。その解明の一端を担えたのは、一人の研究者として非常にうれしいことです。
ただ今回、吉野杉の研究で証明できたことはごく一部にすぎません。マクロファージというたくさんの免疫細胞の中の一つに絞って研究を行いました。免疫力を鍛えてアレルギーを抑制するということのほかにも、まだ多くの効果があると考えています。吉野杉のチップは非常にいい香りがしますが、その成分もわかっていません。諸説はありますが、はっきりしない。まだ、吉野杉が持つ可能性の1%もわかっていないと思います。ということは、9%以上も残っているのです。井村社長とも相談しながら、今後もいろいろな研究を進めていきたいと考えています。
今回の論文はスタートにすぎません。細井学長の言うように、世の中に広く知られて、付加価値が認められてこそはじめて成功例となります。
井村
一企業だけではできることは限られています。栗山村長とは以前から面識があって、いろいろ応援していただいてきました。我々も村の事情がわかっているので、できるだけ貢献していくつもりです。
奈良県立医科大学の細井学長や伊藤先生と出会って、吉野杉のアレルギーに対する抑制効果の可能性が見えてきました。これで、これまで以上に積極的に営業できるようになります。アレルギーで困っている人は多くいます。少しでもお役に立てればうれしいですし、建築棟数を増やすことで企業としても成長していきたいと思っています。
今回の取り組みを通じて、産官学の連携、協力によって新しい文化、経済効果が生まれることを確信しました。地域創生、循環型社会の実現に向けてさらに連携を強めていきたいと考えています。